【ラジオ雑学】初心者向け 現代ラジオの基礎知識~放送局・システム編

【ラジオ雑学】初心者向け 現代ラジオの基礎知識~放送局・システム編

知らなくても損はしないけれど、知っているとちょっとだけ得をした気分になれる。そんなラジオの小ネタをQ&A方式で紹介。 文/手島伸英(横浜探偵団)

Q.送信所ってどうなっているの?

 アンテナは地上高が高いほど良いと思われがちですが、AM局とFM局では、送信所に適した場所がまったく異なります。
 AM局ではできるだけ放送エリアの中央にある広くて平坦な場所で、地域住民の数が少なく、適度に水気を含んだ土地が選ばれる傾向にあります。大地も含めてアンテナの一部として働くため、乾燥した土地では効率が落ちてしまうからです。エリアの中心に設置できない場合は、アンテナに指向性を持たせて調整することもあります。
 FM局ではアンテナの地上高が重要。低すぎず、高すぎず、放送エリアを確実にカバーしつつ、既存局に影響を与えないことが大切です。山から街を見下ろすようなロケーションでは、エリアの端である位置に置かれることや、アンテナに指向性を持たせることも珍しくありません。
 ちなみに、送信機は新しく導入されるものは、AM局もFM局もほぼデジタルです。アナログと比較して、部品の劣化による音質変化も少ないうえ、調整がほとんど要らず、送信効率が驚異的に高い(60パーセントから90パーセントに向上した例もある)というメリットがあります。
 送信所は無人で遠隔制御することも多いため、バックアップが重要。たとえば演奏所からのSTLは、電波(主にGHz帯)、光ファイバー、デジタル回線など、2種類以上のバックアップが用意されます。電源もトラブルに備えて複数の「変電所」から別ルートで引き込むことが多く、無停電電源装置(UPS)や自家発電機と合わせて、安定した放送を目指しています。

FMラジオの送信アンテナは鉄塔にテレビ局などと共に相乗り状態で設置されていることが多い。
こちらはAMのアンテナ(TBSラジオ 戸田公園)。波長に適した長さが必要なので、広大な敷地がいる。

Q.スタジオの音声は局内をどう経由する?

 多くのラジオマンたちが先輩たちから聞かされる「マイク一本あれば放送できる」という言葉。番組制作における創意工夫の重要性を説いた金言ではありますが、実際ことはそう単純ではありません。
 スタジオ内の音声は、BGMなどと一緒にスタジオ内の副調整室(サブ・コントロールルーム。通称、サブ)でミキシングされ、主調整室(マスター・コントロールルーム。通称、マスター)に送られます。
 主調整室には、局内の各スタジオはもちろん、常設のサテライトスタジオ、報道フロアーにあるマイク、道路交通情報センター、その他中継回線、録音番組送出用機器、CM送出用機器など、様々な音声が集約されています。常設のものもあれば、臨時のものもあって、日々流動的です。
 それらすべてを編成から送られてきた編成表に沿って時間通りミスの無いよう送出していくのが主調整室の大切な業務です。それらを支援してくれるのが自動番組送出装置で、APS(=Automatic Program System)やAPC(=Automatic Program Controller)と呼ばれています。
 一般的に、放送を行っているところ(演奏所)は交通の便が良い場所が選ばれ、実際に電波を出しているところ(送信所)は、放送波の特性に応じた電波環境の良い場所が選ばれます。主調整室を経た音声信号は、STL=Studio to Transmitter Linkと呼ばれる伝送装置を使って、送信所に送られていきます。

Q.そもそもAMとFMは何が違う?

 元々、AMとFMは電波の種類の違いを表す言葉でした。AMはAmplitude Modulation(振幅変調)、FMはFrequency Modulation(周波数変調)の略です。
 電波はただ存在するだけでは意味がありません。そこに何らかの方法で情報を乗せることで、その威力を発揮するわけです。最もシンプルな方法は、電波を出したり止めたりすること。それだけで、「0」か「1」かの情報を送れるようになります。これを利用したのがモールス通信で、CW(Continuous Wave)と呼ばれ、今でもアマチュア無線などで使われています。
 こうして電波に情報を乗せることを「変調」といいますが、大切なのは変調されていない電波は、すべて同じものだということです。AMもFM(モノラル)もまったくの「無音」で情報が乗っていない(変調されていない)状態では、区別がつきません。この状態を「無変調」と呼んでいます。
 ちなみに無変調の電波に対して、音声信号を「加算して」作り出されたのがAMで、音声信号によって「周波数にゆらぎを与えたもの」がFMです。つまり、AMは放送される音声の大きさによって電力が変化しますが、FMは周波数が変化するだけで、電力は常に一定です。
 一方、受信する側から見たとき、電力の変化そのものに音声情報が含まれているAMは、ノイズも含めて受信した「信号全体」を情報として取り込まなくてはなりません。しかし、電力が一定なFMは、電波の強いところから「周波数の変化」だけを情報として取り込めば、あとはノイズに合わせたカットが可能です。こうした理由からAMはノイズに弱く、FMはノイズに強いという特性を持っているのです。
 このように、元々は電波の種類の違いを表す言葉だったAMとFMですが、その電波を使って放送が行われるようになったことから、中波放送をAM放送、VHF(超短波帯)のラジオ放送をFM放送と呼ぶことも一般的になりました。短波を指すSWだけが、変調方式の違いではなく、波長を表すShort Waveの略なのは、ちょっと面白いですね。

Q.「ワイドFM」って何?

 2011年にテレビが完全地デジ化されたことを受けて、それまで使われていたVHF帯に大きな空きができました。そのうち、1~3chだった部分をV-Low、4~12chだった部分をV-Highと呼んで、どう活用すべきかの議論が交わされた結果、V-Lowのうち90.1MHz~94.9MHzを、「都市型難視聴対策」をはじめとするAM放送を補完する目的に充てることになりました。それが、FM補完局です。2014年から、順次全国に広がっていきました。
 FM補完局は中継局として免許されるため、コールサインはありません。しかし、ただの中継局とは言っても、既存のFM局にとってはある意味新規参入者なわけで、ラジオ業界に与えたインパクトは小さくなかったように思います。
「ワイドFM」というネーミングはFM補完局を指す愛称で、在京AMラジオ局を中心に広がって一般名称化したものです。FM補完局が始まるまで、FM放送の周波数は76MHz~90MHzだったので、それを「ワイドにしたFM」というわけです。
 ちなみに、以前から受信周波数の上限を108MHzまで広げたラジオが多く作られていましたが、アナログテレビの1~3chの音声が受信できること、海外仕様と共存できることなどから、各メーカーが独自の判断で行っていたものです。そこで、これを新たな商機とみたメーカーも、「ワイドFM対応」を積極的にアピールするようになりました。

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