知らなくても損はしないけれど、知っているとちょっとだけ得をした気分になれる。そんなラジオの小ネタをQ&A方式で紹介。放送局・システム編はこちら。
文/手島伸英(横浜探偵団)
Q.そもそも、電波って何者?
電波とは、電場と磁場の変化によって生じる波動(電磁波)のうち、「ガンマ線」と「光」のあいだのもので、日本の電波法では、「三百万メガヘルツ以下の周波数の電磁波」と定められています。
もうこれだけでちんぷんかんぷんだという人も多いと思いますが、まじめに突き詰めると、電磁気学と光学と量子力学が絡んでくるようなシロモノなので、「世の中には電波という目に見えないものが飛び交っていて、『光』としての性質と『波』としての性質を持っている」ぐらいにとらえておくと良いでしょう。
海を見ていると、波が高くなったり低くなったりを繰り返しています。電波もこの「高くなって低くなって元に戻る」というサイクルを電気的に繰り返していて(波動性)、そのサイクルを1秒間単位で数えたものが、周波数というわけです。一般的に、波が伝わっていくためには媒質が必要で、音が伝わるのも空気があるからです。しかし、電波がスゴいのは、たとえば真空中でも、どこにでも飛んでいくところ。これには光としての性質(粒子性)が関係しています。
Q.水平偏波と垂直偏波って?
フリスビーは投げる者によって、水平に飛ばすか、垂直に飛ばすかを決めることができますが、同じように電波もアンテナの形式や設置方法によって、任意の発射方法を選ぶことができます。
たとえば、旧アナログテレビのアンテナとしておなじみの宇田・八木アンテナですが、これは一般的に、電波の発射方向から見て「左右対称」の状態で設置されます。このときアンテナは左右のエレメント間の電位差によって動作して、電波が飛んでいくわけです。これを水平偏波と呼びます。ちなみに、このアンテナを90度回転させて設置すると「上下対称」となり、垂直偏波となります。
水平偏波には上下の電位差が無く、垂直偏波には左右の電位差が無いため、理論的には水平偏波の電波を垂直偏波のアンテナで受信することはできません。この状態を「直交」といいます。
FM局は、電波法に基づく審査基準において「その発射する電波の偏波面が『原則』として水平となるものであること」と定められているため、原則は水平偏波です。同一周波数を使った中継局や、他局との干渉が問題となる場面では、例外として垂直偏波を使用することがあります。互いに直交状態にあるため、干渉を最低限に抑えることができるからです。その場合、受信側のアンテナも垂直偏波で設置する必要があります。
短波局の場合、送信アンテナは水平/垂直の両方が混在しています。これは、電波が電離層で反射されるときに偏波面が乱れる(回転する)ことを前提にしているため、送信側でこだわる意味が無いからです。偏波面の乱れはフェージングの一因でもあります。
なお、AM局の送信アンテナはすべて垂直偏波です。
Q.他に特殊な偏波ってあるの?
円偏波というものがあります。基本的には、水平偏波と垂直偏波を組み合わせたようなもので、受信側のアンテナは、向きさえ合っていれば、縦でも横でも斜めでも受信できるというメリットがあります。電波の進行方向に向かって右回転のものを右旋円偏波、左回転のものを左旋円偏波と呼んでいます。
衛星放送など、送信側の姿勢が一定しない可能性がある場合、偏波面のズレは受信レベルのロスとなって表れるため、こうした方法が採られます。
Q.遠くのFM局が聞こえたのですが?
放送局の電波は、本来互いに干渉しないよう、放送エリアが決められています。しかし、何らかの事情で遠くの放送局の電波が届いてしまうことがあり、これを異常伝播といいます。原因は様々で、気象条件によるもの、航空機によるもの、さらには山岳回折といって、山によって反射された結果届いてしまうこともあります。
気象条件による代表格といえば、スポラディックE層(通称、Eスポ)による反射で、春〜夏頃、E層と呼ばれる電離層の電子密度が極度に高くなることによって発生します。それまでスカスカのザルだったものが、急に鏡のようになってしまうイメージです。
これにより、たとえば東京都内で沖縄のFM局がクリアに聞こえたりすることがありますが、ある特定の局だけでなく、FMの帯域全体で電波の飛びが良くなっている可能性も高いので、他の周波数もチェックしてみると良いでしょう。Eスポは長くても1〜2時間程度で解消してしまいます。
周波数ってどうやって割り当ててるの?
ラジオ局が新規に開局するときや、何らかの事情で周波数変更の必要が生じたとき、総務省(総合通信局)が勝手に割り当てると思っている人も多いと思いますが、実はまず、事業者側から周波数の提案をしなくてはならないのです。
まず事業者は専門の業者を使って、割り当てを希望するエリアとその周辺で、潜在電界強度測定(通称、電測)を行います。これはどの周波数がどの程度使われているかを調べるもので、その結果を基に周波数の希望を出します。ただし、空いてさえいれば自由に使えるわけではありません。
まず、80.8〜81.2MHzは、その倍数が航空機の緊急遭難周波数243MHzに干渉する恐れがあるため使用NGです。その他にも、送信所を共用する場合には他局の周波数±0.8MHz以内はNGとか、もしも相互変調が発生した場合、FMラジオのIF(中間周波数)に干渉する恐れがあるため、他局とエリアが重なる場合には他局の周波数±10.6〜10.8MHzはNGとか、細かいことが決められています。
周波数の割り当ては予備免許によって行われるため、周波数以外の審査も含めたすべてが終わるまでは、気が抜けない状態が続くのです。
ちなみにinterfmは2015年6月に、東京タワー内でのアンテナ移設を行っています。これに伴い、アンテナの地上高は200m付近から頂上付近の320mへと変更されましたが、既存の76.1MHzのまま地上高を上げると近隣局に影響があるとの理由から、周波数が89.7MHzへと変更されました。
余談になってしまいますが、2020年の東京オリンピックを前に海外仕様のラジオで受信できる周波数に移行させたのではないかという憶測まで飛び交ったほどです。確かに海外のラジオはヨーロッパが88〜108MHz、北米は87.5〜108MHzと低い周波数が受信できません。
恐らく、このときも電測を行っているはずですが、テレビがアナログの時代に干渉防止の目的で割り当てNGとなっていた85MHz〜90MHzはガラガラだったため、まさにブルー・オーシャン状態。いい波に乗ったといえるでしょう。
Q.波長って何ですか?
電波は「ガンマ線」と「光」のあいだの電磁波だと書きましたが、物理的に明確な境目があるわけではないので、性質が似ている部分も少なくありません。そのひとつが「速度」です。いずれも、1秒間に30万キロメートル進みます。
たとえば、1ヘルツの電磁波は波が上がって下がってゼロに戻る1サイクル分で、ちょうど30万キロ進んでいますが、2ヘルツの電磁波は1秒間にそのサイクルを2回繰り返すので、1サイクルあたりで進む距離は半分の15万キロということになります。この「1サイクルで進む距離」のことを波長といい、周波数が高いほど短くなります。
Hzと30万キロを毎回持ち出すのも大変なので、一般的には、300/周波数(MHz)=波長(メートル)という式がよく使われます。たとえば、アマチュア無線で使われる50MHz帯の場合、300/50(MHz)=6(メートル)となり、これが「6メーター」と呼ばれるゆえんです。
Q.夜だけ遠くのAM局が聞こえるのはなぜ?
地球の大気圏には電離層と呼ばれる電子密度が高い層が存在します。空気中の分子が、宇宙からの紫外線やエックス線によって電離した結果と考えられていますが、これらは低い方から、D層(日中のみ)、E層、F1層、F2層と呼ばれています。それぞれ、電波に対しては「ふるい」や「鏡」のような働きをしますが、その「編み目」は、最外層にあるF2層が最も細かく、最内層のD層はごく粗いものです。
波長の話とも関係してくるのですが、まず超短波(VHF)以上の電波は、波長が短すぎて、すべての「編み目」をスルーしていきます。短波はD層とE層をスルーし、F1層/F2層で反射されるため、海外まで到達します。
問題のAM局=中波ですが、日中は、D層の編み目とちょうど干渉しやすい(目詰まりと考えるとわかりやすい)こともあって、スルーも反射もされず、ただ減衰していきます。しかし、夜になるとD層が消滅するため、E層までたどり着き、反射されてきます。このため、夜になると遠くのAM局が聞こえるのです。