使えるアンテナと使えないアンテナ
現在のFMラジオ放送の周波数帯域は76.1~94.9MHz。旧アナログテレビのV-Low(1~3ch)で使われていた周波数が、91.25MHz(映像)/95.75MHz(音声)~103.25MHz(映像)/107.75MHz(音声)と、極めて近い。
このため、V-Lowが受信できるアンテナなら、FMラジオ放送用のアンテナとして使用が可能だ。ちなみに旧アナログテレビ時代のFMラジオは76~108MHzまでをカバーしているものが多く、1~3chのテレビ音声を聞けたのだが、その逆をやろうというわけだ。
使えるアンテナの見分け方だが、まず自分の家の屋根を見上げて欲しい。UHFのアンテナやBS/CSのパラボラアンテナだけでVHFのアンテナがない場合には、今回の方法は使えない。また、そもそもアンテナがない場合には、なんらかの共同視聴システムや、ケーブルテレビ、光回線からテレビの電波が供給されているはずで、システムが新しいためこれも非対応だ。
ラッキーなことに、VHFのアンテナが見つかった場合には、家の中に入ってアンテナ端子を探して欲しい。使っていないアンテナ端子がある場合には、それで試すことをオススメするが、アンテナ端子がひとつしかなくてすでにテレビで使っている場合は、いったんアンテナ端子につながっているテレビの接続を抜く必要がある。このとき、テレビ側の接続はいじらないほうが、後々トラブルが起きにくい。
必ずアンテナ端子の電圧測定を!
接続するアンテナ端子が決まったら、まずはテスターで、そのアンテナ端子にかかっている電圧を測定して欲しい。家庭内のどこかでBSやCSを受信できる環境では、アンテナ端子に最大で20V程度の直流電圧がかかっている場合がある。電圧がかかっていない場合はそのまま使用して問題ないが、電圧が出ている場合には、そのまま使用すると機器破損や感電の危険性がある。その場合は、BS/CSと地デジの分波器(例:日本アンテナMXEUV)などをあいだにはさんで、絶縁してやればOK。「出力(※入力と読み替えて差し支えない)」端子にはアンテナ端子を、「UHF/VHF」端子にはFMラジオやチューナーをつないでみよう(「BS/CS」端子には、なにもつながない)。
ふだん聴いているFM局に合わせてみて、受信状況が改善されているなら合格だ。これで、快適受信の入り口に立つことができた。面倒でなければ、毎回、手動でつなぎ替えても良いし、分配器をあいだに入れて、テレビとFMラジオで同時に受信できるようにしたっていい。
アンテナ端子がないラジオにもチャンスが!
ここまで、FMラジオ側にアンテナ端子があることを前提に書いてきたが、もしアンテナ端子がなくても心配は要らない。多少、信号レベルは落ちることになるが、ちゃんと旧アナログテレビアンテナの恩恵にあずかる方法がある。それは、ケーブルを自作することだ。
ケーブルの自作というとハードルが高そうだと感じる人もいると思うが、実はそうでもない。市販のアンテナケーブルを真ん中でぶった切って、手持ちのFMラジオに応じた接続部品を取り付けるだけだからだ。多くの人は、中学時代に技術家庭で半田ごてを握った経験があるはずだけれど、今回ははんだ付けすら不要。手順は以下の通りだ。
1.市販のTV接続ケーブルを切断する
2.15cmほど外皮を剥く
3.シールドと芯線を分離する
4.みのむしクリップをカシメる
詳細は、写真で載せておくが、F形-みのむしクリップのケーブル(以下、みのむしケーブル)は、このように簡単に作ることができる。もちろん、みのむしクリップの代わりに手持ちのラジオに対応したコネクターを取り付ければ、専用ケーブルの完成だ。
できあがったみのむしケーブルは、芯線側をFMラジオのロッドアンテナ(縮めた状態のほうが効果的な場合が多い)に、シールド側をできればラジオのアースにつなぐのが理想だ。しかし、アースのないラジオもあるし、毎回電池ボックスを空けてマイナス端子につなぐのも危険がともなう。そこでラジオの下にアルミ箔を敷いて、そこをアース代わりにしてシールド側をつないでもいい。感度はやや落ちるが、それでも十分な効果を得られるはずだ。
受信環境が劇的にパワーアップ
手持ちのICF-7600GRはアンテナ端子が3.5mmモノラルジャックなので、新品の3.5mmモノラルジャックにみのむしケーブルをつないで仮設で実験してみることにした。
もともと筆者宅は山を切り崩して造成した住宅街にあり、周囲からはややくぼ地になっている。決して電波状況がよい場所ではない。最寄り駅にはコミュニティFMがあるが、その電波すら入らないロケーションなのだ。
ところがアンテナをつないだ途端、これはもうまったく別の場所で受信しているかのようである。今まで聞こえなかった局が聞こえだし、バンド全体が一気に賑やかになった。東京都のコミュニティFM「FMしながわ(88.9MHz/20W)」が聞こえたのも予想外だったが、茨城県の「茨城放送(94.6MHz/1kW)」がステレオで入感してきたのには本当に驚かされた。アンテナの地上高は10メートルほどだが、東京タワー方面(東)に向いている。その指向性が、ドンピシャだったのだろう。
ここまでかかった費用はTV接続ケーブルの1,300円とみのむしクリップの200円だけ。わずか1,500円、ホームセンターで普通に売られている材料だけで、受信環境の劇的なパワーアップが実現した。このまま使っても良いけれど、どんなに少なく見積もっても、10年以上前のアンテナだ。いずれ劣化してくるはずなので、点検はおこたらないようにしたい。また、これを足がかりに、本格的なFMアンテナを設置してみてもいいだろう。
文/手島伸英(横浜探偵団) ラジオ受信バイブル2021より