自宅で未知なる電波を受信せよ!

自宅で未知なる電波を受信せよ!

FM電波の受信実験
アンテナひとつで世界はガラリと変わる⁉

ラジオ付属のロッドアンテナだけでは捉えられないような微弱なFMラジの電波をキャッチしたい! アンテナ選びから設営まで、編集部員が「自宅」でFMラジオの受信実験を試みた。
(文・編集部)

 これまで「ラジオマニア」では多くの受信実験を行ってきた。なかでもAMラジオは夜間に遠距離局も容易に受信できたり、ループアンテナを使えばお手軽にパワーアップが見込めるので、いつでも実験の中心だった。
 ところが時代が変わり、多くのAM局がFM補完局を開局。このことで、FM電波をいかにクリアに捉えるかの需要が急激に高まりつつある状況だ。
 とはいえ、FMの電波は障害物に弱く、基本的に見通し距離にしか届かない。AM局よりも中継局が多いのもそういう理由からだ。つまりAMラジオのように何百キロも離れて電波が届くようなことはEスポのような異常伝搬がないとまず考えられない。
 以上のことから、今回目指したい目標は「通常のラジオのロッドアンテナでは捕まえられないような局を受信すること」に設定し、FMラジオ受信実験を試みた。

どうせなら自宅!受信環境について

 今回受信実験の場に選んだのはこの原稿を書いている私の自宅(東京都江東区)。どうせなら日々いる場所の受信環境をグレードアップしてみたい。
 地理的な説明をしておくと、スカイツリーが目視できる場所なので、ワイドFMを含めた主要なFM局はかなりクリアに受信できる地域である。鉄筋のマンションではあるが、どの部屋でもクリアに受信が可能だ。
 しかしこの状況、裏を返せば、地元局の電波が強力すぎるわけで、これらの電波の周波数付近の微弱な電波はすべてかき消されることになる。FMの場合、電波が強いと同じ周波数はもちろん、0.1MHz隣りの局にも影響を与えてしまう。これがどう出るのか…。
 また江東区は海に接している。海には障害物がないため、千葉県や神奈川方面から来る電波には期待できる。岡山・広島で沿岸の徳島、香川のコミュニティ局が受信できるという話も聞いたことがあるので、出力の小さな局も狙ってみたいところだ。
 なお、我が家は残念ながらマンションの1階だ。FMは「見通し距離」と書いたが、地上高が稼げればそれだけ有利な条件となるが、こればかりは仕方がない(1階の有利なところもあるがそれは後述)。

外部アンテナはどれがいい?

 さて、どうしたら微弱なFM電波も拾えるようになるのか…答えはたったひとつ。外部アンテナを使う! これしかない。
 FM用のアンテナとなると、簡単に入手できるものに限定すると、以下の3種類が考えられる。
1.T型アンテナ
2.位相差給電アンテナ
3.八木アンテナ
 1はフィーダーアンテナと呼ばれるもの。ケーブルをカーテンレールなどに這わせるコンポなどに付属してくる例のやつと言ったほうがわかりやすいだろうか。もしかしたらすでに試したことがある人は多いかもしれないが、すでに十分届いているが若干ノイズなどが生じやすい環境において効果を発揮する程度のもので、このアンテナを使って微弱な電波をキャッチするのは難しいと言える。

T型アンテナ。コンポを買ったらついてくるアレ

 2は別名トンボアンテナ。ネット通販サイトなどでは「2素子アンテナ」と表示されていることが多いが、後述の八木アンテナとは別モノである。平行に並んだ2素子のアンテナのうち後方の利得を抑えることで、反射波の影響を受けないように設計されている代物だ。このアンテナの特性でもある指向性を利用してノイズを軽減することは可能だろうが、「微弱な電波を捉える」という今回の命題を解決するのには、相棒としては心もとない存在だ。

位相差給電アンテナ。八木に比べるとコンパクト

強力な味方「八木アンテナ」

 ということで、やはりここは八木アンテナを使うしかないだろう。
 八木アンテナはご存知のとおり、魚の骨のような形状のものだ。この魚の骨はエレメント(素子)と呼ばれており、この数が増えれば増えるほど利得が増し、指向性もアップする。
 本格的な受信を目指すのであれば迷うことなくFMラジオ用としては最も数の多い8素子を選ぶべきだ(マスプロのFM8Aなど)。しかしここで「理想と現実」の話になる。
 八木アンテナのエレメントの長さは波長の半分の長さにすればマッチングする。市販の八木アンテナは1.91もしくは1.92mに設定されている。ここで「1.92m」くらいならうちの家でもなんとか設置できると思った人もいるかもしれないが、これは幅の話。これが8素子ともなると、一定距離をおいて8本並べらえるわけであるから、なんと奥行きが3mを超えてしまうのだ。かなり巨大なアンテナである。さすがに読者のみなさんも参考にしづらいと思うのでこれは却下しよう。
 結果、ここは一段落ちるが、5素子のアンテナを選ぶことにした。とはいえ、5素子の場合でも奥行きは1.95mほどある。つまりおよそ2メートル四方のアンテナである。これをベランダに置いたら邪魔で仕方がないだろう。
 が、ここで生きてくるのが我が家が1階ということ。狭いながらも専用庭があるのだ。基本マンションの専用庭にヘンなアンテナが設置されていたら管理人に速攻注意されるだろうが、重量は2キロそこそこ。ベランダと専用庭の移動は容易い。注意されたらすぐに移動!作戦を取るにことした。

FM八木アンテナ。マスプロ電工や日本アンテナから発売されている。5素子で8,000円程度

いかにしてラジオと
八木アンテナを接続するか

 5素子の八木アンテナのほか、必要なものは以下のとおり。

・マスト(八木アンテナを立てるためのもの。市販品はアンテナ部分しか入っていないので注意)
・マスト台
(マストを立てるもの)
・同軸ケーブル
(75Ω)

 さて、ここで問題となるのが同軸ケーブルをどうやって受信機と接続するかだ。剥いた芯線をロッドアンテナに巻きつけるという手が一番カンタンらしいが(この際同軸の編組線はアンテナに触れないようにしなければならない)、この方法では利得が落ちそうな気がするし、何よりスタイリッシュではない。
 そう思っていたところ、ソニーのICZ-Rシリーズ(現行なら260TV、生産終了しているが51など)に便利なものが付属していることに気づいた。「FMラジオ用アンテナ接続ケーブル」である。
 ICZ-Rシリーズは外部アンテナ用の3.5mmジャックが備わっているが、この接続ケーブルは外部アンテナ用ジャックと屋外テレビのアンテナ端子とを、同軸ケーブルで接続するためのアダプタ的役割を果たす。VHFアンテナ、またはFM放送を送信しているケーブルテレビであれば、家庭にあるアンテナ端子に接続することでFM放送の感度が向上するので付属されているのだ(ちなみに現在はご存知のとおり地デジ化されたのでテレビのアンテナはUHFに置き換わっている。いまはあまり需要がなくなっていると言わざるを得ない)。
 つまりこのアダプタに合う、ネジ式F型コネクタの同軸ケーブルを使用すればしっかりラジオと八木アンテナが接続できるというわけだ。
 そういうこともあり今回実験に使用する受信機はソニーのICZ-R250TV(260TVのひとつ前の機種)に決定した。

ICZ-R250TVに付属している「FMラジオ用アンテナ接続ケーブル」を同軸ケーブルに接続。これをそのままラジオのジャックに差せばOKだ。なお、同軸ケーブルはなんでもいいが、今回はソニーICZ-R250TVに接続するため、先がF型コネクタのものを購入(5m)

大きいは正義!?
いかんなく威力を発揮

 これら必要なものを自宅に持ち込み、いよいよ受信実験の開始だ。
 八木アンテナの組み立ては取説を紛失していたため多少迷ったが、できあがりの写真を見ながらなんとか完成。で、実際に目前にすると「5素子でも十分でかい!」と思ってしまう。そこそこ広めのベランダでないと設置するのは不可能かもしれない(購入前にじっくり採寸してほしい)。
 これに同軸ケーブルを接続する。購入したケーブルは両方F型接栓だったため、片方をニッパーで切断し、芯線が出るように加工。これを八木アンテナの給電部分に接続する。もちろん片方はアダプタを使ってICZ-R250TVに接続。完璧! やはりスタイリッシュだ。

給電部に差し込み、ドライバで固定する。通常ここに防水カバーを施す

 これで準備は完了。あとは受信するだけだ。
 ただ、今回の目的は繰り返しになるが「通常のラジオのロッドアンテナでは捕まえられないような局を受信すること」。八木アンテナの前に、まずはロッドアンテナのみでくまなく受信してみる必要がある。
 普段は決まった局しか聞かないので、新たな発見があった。さすが海が近いだけあって、FM横浜やbayfmはクリアに受信できたし、意外なところではコミュニティ局・かつしかFMやTOKYO FM檜原局がノイズは多かったもののなんとか入感したこと。これらがどう八木アンテナで変化するかもチェックしたい。
 さて、仕切り直してICZ-R250TVを八木アンテナに接続。この際、ICZ-R250TVの「本体/外部FMアンテナ切り換えスイッチ」を「外部」の位置に合わせるのを忘れてはいけない。
 いよいよ八木の威力をみるときがやってきた。

写真では伝わりにくいがかなりでかい(ちなみにアンテナと支柱を結ぶ斜めの支え棒は取り付け省略)


 まずはロッドアンテナでギリギリ受信できた局をチェック。八木アンテナの方向を変えながら一番クリアになるポイントを探す。すると、どの局もノイズが減り、明らかにクリアになっていることがわかった。十分放送内容が楽しめるレベルである。
 次に調べるのはロッドアンテナでは一切受信できなかった局。これはあらかじめ「もしかしたら」と当たりをつけていた局を中心に探った。
 地理的な問題なのか、そもそも距離的には不可能なのか、内陸側のレディオベリーやFM GUNMAの受信は無理だったが、以下の局は入感した。

・J-WAVE(みなと局)
 ご存知混信対策で設置された六本木の局である。100Wしかないのでロッドアンテナでは捉えきれなかったが、八木アンテナであれば内容が確認できるくらいのレベルで受信ができた。

・FM FUJI(三ツ峠局)
 東京方面に向けた78.6MHzがなんとか入感。八王子など多摩方面では比較的クリアに受信できることは知っていたが、23区のしかも東に位置する江東区で、ノイズまみれながらも受信できたのには驚いた。

・かわさきFM(神奈川県川崎市)
・かずさFM(千葉県木更津市)

 いずれもコミュニティFM局。やはり海側に開けているからか、20Wでもしっかり受信できた。距離的には川崎のほうが近いが、木更津は海を挟んだ反対側に位置するので、よりクリアに受信できた。

・NHK-FM(水戸局)
・茨城放送(FM補完 水戸局)

 方向的には陸地しかないし、およそ100キロも離れているのでさすがに無理かと思ったら、なんと入感。さすがにノイズは多めだったが、どちらもしっかり放送内容から同局であることが判断できた。方向的にはマンション自体が壁にもなっていることもあり、もう少し条件が整えばよりクリアに聞こえるに違いない。

まとめ

 当然といえば当然ではあるが、八木アンテナの威力は十分に実感できる結果となった。受信環境的にはそこまでの好条件ではないにもかかわらず、「聞こえないもの」が「聞こえるようになった」のは単純にうれしいものだ。
 一軒家であれば庭に設置するよりも屋根の上につければ効果は抜群だろう。くれぐれも無理のない設置を心がけながら、この威力をぜひ試してみてほしい。

八木アンテナのみで受信できた放送局

周波数出力放送局名5段階評価
78.6300WFM-FUJI(三ツ峠)2
79.120WかわさきFM(川崎市)3
83.21kWNHK-FM(水戸)2
83.420WかづさFM (木更津市)4
88.3100WJ-WAVE(港)4
94.61kW茨城放送(FM補完局)2

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